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 あくまのきんぴら 


あくまのきんぴら

 わたしの住んでいる国の、
 となりのとなりのとなりの国に、王様がいました。
 どこの国でも王様というのはそうであるように
 この王様も、国中でいちばんえらいのでした。
 だから王様の言うことは、絶対なのです。

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 ある日、王様は時代劇を見ながら言いました。
 「朕を殿と呼べ!」
 それでその日から、王様は殿様になりました。
 大臣は老中になりました。
 王様は、すっかり日本が気に入ってしまったのです。

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 街の人々にも、日本ブームはやってきました。
 み〜んな着物を着ています。
 和菓子さんもできて大繁盛です。

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 コックさんだって 日本好きになりました。
 チョンマゲの上にコック帽をかぶっています。
 そんなかっこうで王様・・・イヤイヤ、殿様でした・・・殿様の注文した料理を作るのですが、いきなり和食の作り方なんて言われても分かりません。
 そこで殿様にお願いに行きました。


 コックさんたちに頼まれた殿様は、こんなお触れを出しました。


     宮廷パーティー城内宴会のお知らせ
   今度の日曜日、お城で宴会を開きます。
   誰でもお気軽におこしください。
   ただし、おひとり様一品、お得意の日本料理をご持参ください。
   最も美味しい料理を作ってきたものには、褒美が与えられます。



 お触れを見た街の人々は、我こそはと競って日本料理の研究をはじめました。

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 そして、その噂は、街外れに住むあくまの耳にも届きました。


 そのあくまというのは、悪魔という人種ではあるのだけれど、おとなしくて、とってもやさしい人なのでした。
 だけど、そのおそろしい顔、鋭い爪、とがった牙などのせいで、街のみんなはこわがって近づきません。

 「宴会なんて言っているけど、本当はコックさんたちが料理を覚えるためのものらしいぞ。コックさんたち本当に困ってるみたいだなあ」
 動物達となかよしのやさしいあくまは、鳥達の情報網により、そんな裏事情にも詳しいのでした。

 「だけど僕なんかが宴会に行ったらみんな嫌がらないだろうか」
 おばあさんが日本出身の妖怪であるあくまには、実はおばあさん直伝の自慢料理があったのです。
 散々悩んだ末に、あくまは宴会に行くことに決めました。

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 さて、宴会当日、城内は人と料理でいっぱいです。
 その中に変装したあくまの姿もありました。
 あまり人前に出たことのないあくまはドキドキそわそわしています。

 宴もたけなわ、優秀な料理がだんだんと出揃ってきました。
 殿様は歩み出てひとつひとつの料理の味見をします。
 あくまの料理の番がやってきました。
 「むっ!」
 殿様は思わず声を漏らしました。
 めくるめく味の世界が舌の上に広がっていきます。
 同時にどこか懐かしい感じがこみ上げてきます。
 殿様は何故かおばあさんの顔を思い出しました。
 「優勝はこの料理に決まりじゃ!」
 殿様は高らかにそう宣言すると、料理を作った者を呼び寄せました。

 ただでさえ人前に出たことのないあくまは、たくさんの人の注目を浴びて、カチカチに緊張しています。
 だから、殿様の御前に出て行くときに、変装用のマントのすそを踏んづけて転んでしまいました。
 その拍子にマントがはがれて、みんなに姿を見られてしまいました。
 その恐ろしい姿に会場はどよめきました。
 中には小さく悲鳴をあげる人までいます。

 あくまはそんなみんなの反応を見て、やっぱり来なければよかったと思いました。

 殿様もびっくりしていましたが、そこは殿様、みんなにあくまが怖いだなんて思われては、普段威張っている面目丸つぶれです。
 平気な顔をして、「では、褒美を取らす」なんていって黄金のコップを渡すと、臨時料理長としてコックさんたちに料理を教えるように申し付けました。
 そして最後に、
 「この料理の名前はなんと言うのだ?」と聞きました。
 このときあくまは、緊張やはずかしさでもう泣きそうになっていましたが、かろうじて
 「きんぴらです」と答えました。
 そうしたら、殿様はいたくこの名前が気に入ったらしく、しきりにうなずいて「きんぴらか・・・」とつぶやいては、また料理をつまんでみていました。
 あくまはちょっとだけ、ホッとしました。

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 さて、臨時料理長は大忙しです。
 それまで人に必要とされたことがなかったあくまは、大張り切りに張り切って、細かいレシピを作り、街の人にもきんぴらを教えてあげました。
 もちろん、コックさんたちにも丁寧に教えています。

 コックさんたちも必死になって、きんぴらの作り方を覚えました。
 何しろ怖い顔のあくまが近くで教えてくれるものですから、失敗したら何をされるか分からないと思っていたのです。

 コックさんたちの怯えた様子を見てあくまはちょっと、やっぱり来なければよかったなあ、と思いました。


 そして、コックさんたちの料理がうまくなって殿様がきんぴらを食べ飽きた頃、飽きっぽい殿様はそろそろ日本に飽きてきていて、今度は中国四千年の歴史に魅せられ、「朕を皇帝と呼べ!」と叫んでいました。

 もともと、臨時の料理長だったあくまは役を解かれ、今度お城では、中華料理のパーティー兼コンテストが開かれようとしています。

 あくまはそっとお城を出ていきましたが、誰も見送ってくれる人はいませんでした。
 そのときまたあくまは、やっぱり来なければよかったんだ、と思いました。

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 何年か経ちました。
 王様は今度はインドにあこがれて、象に乗っての散歩に夢中になっていました。

 あくまは変装をして、生活必需品を買うためにカレーの匂いのする街の中を歩いていました。
 すると、どこからか
 「きんぴらおくれ」
 という声が聞こえてきました。

 驚いたあくまは、声の出所と思われる店の中をのぞいてみました。
 すると、どうでしょう『あくまのきんぴら』という名前が他のメニュー(主にカレー)と混ざって並んでいます。
 あくまはびっくりして、他の店の中ものぞいてみました。
 すると、ほとんど全部の食べ物屋さんに『あくまのきんぴら』はあったのです。

 あくまは、
 「ああ、あのとき勇気を出して行ってみてよかったなぁ」と思いました。


 また、これは鳥達の情報ネットワークで後から知ったことなのですが、王様は今でもたまにきんぴらを注文するそうです。






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