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 お兄ちゃんのバカ 


お兄ちゃんのバカ

 「うわぁぁぁん」

 涙でにじんだ景色のなかを、お母さんを探してフラフラ歩く。

 「お兄ちゃんがぁ」

 また負けた。
 お兄ちゃんと僕とは2つ違い。お兄ちゃんは2年生で、ぼくは来年小学生だ。

 別にお兄ちゃんがキライってわけじゃないけど、僕たちは毎日ケンカする。きっとお兄ちゃんが 僕をキライなんだ。

 もちろんいつも僕が負ける。今日こそはと思ったのにダメだった。
 洗濯物をたたんでいるお母さんの膝のなかにかけこむ。

 「お兄ぃちゃんがぁぁ」

 「あらあらどうしたの?」

 お母さんのとこまで来ると何もしゃべれない。息の吸い方を忘れたみたいだ。

 少し泣きべそがおさまって、そーっと顔を上げると、ふすまのあたりにお兄ちゃんが、「あちゃー」って顔して立ってた。
 ぼくはまた怒っている気持ちを思い出したから、ありったけの悪口を言うことにした。

 「お兄ちゃんのバーカ、アーホ、クルクルパー、デーブ、ブータ、おまえの母ちゃんでーべそ!」

 ぺちっ。
 お母さんにおでこはたかれた。フンダリケッタリだ。

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 お兄ちゃんってばズルイんだ。自転車だってピカピカのマウンテンバイクだし、服だってオモチャだってみんなシンピンだ。
 そしてお兄ちゃんのときにシンピンだったものは、おさがりになって僕のものになる。お兄ちゃんは乱暴だから、たくさん傷がついてる。

 お母さんに文句を言っても、トリツクシマモナイ。
 やっぱりお兄ちゃんってばズルイんだ。

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 僕があんまり文句を言うもんだから、ある日お母さんが言った。

 「それなら今日から、お兄ちゃんを交代しましょう」

 もちろん僕はすぐ賛成した。どんなに頑張ってもお兄ちゃんにはなれない。いくら頭が良くなっても、いくら背が高くなっても、僕が後から生まれてきた限り、僕がお兄ちゃんになれることはない……そう思っていた。だからこれはフッテワイタヨウナハナシだ。

 絶対にお兄ちゃんになった方がお得だ。ただ問題は現時点でのお兄ちゃんが、その座を放さないんじゃないかってこと。
 そしたら、

 「いいよ。弟の方がラクチンだし」

 だって。
 以外にあっさりうまくいった。へっへっへ、後で後悔しても知らないぞ。

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 さあ、今から僕の方がお兄ちゃんだ。なんだかエラくなったような気がする。
 とってもいい気分でおやつを食べていたら、

 「「あっ」」
 二本の手が同時にのびる。最後の一個だ。
 ここは当然お兄ちゃんのケンゲンで奪い取ろうとすると、

 「お兄ちゃんでしょ。ガマンしなさい!」

 と、お母さんの声。

 チェッ、なんだよ。
 まぁ、しょうがない。ぼくはカンダイな心でゆずってやることにした。なんてたってお兄ちゃんだもん。
 そういえば、いまは弟のお兄ちゃんもおやつをくれたりしていたなぁ。たまにだけど。

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 おやつを食べ終わったところで、今度はゲームをすることにした。こういうときは兄弟がいてよかったと思う。ひとりっ子の友達に比べて家にはソフトがたくさんある。対戦相手にも困らない。
 …だけどお兄ちゃんを交代したからって、ゲームのうまさが変わるわけじゃない。もちろん僕だって下手なわけじゃないけどさ。やっぱりかなわない。
 ちぇっ、少しはお兄ちゃんにハナをもたせろよ。
 む〜、だんだんくやしくなってきた。リセットボタンを押してソフトをかえる。

 「あっ、なにすんだよ!」

 「うるさい!お兄ちゃんに逆らうな!」

 ふふん。やっぱりお兄ちゃんは便利だ。


 何度か同じようなことを繰り返しているうちに、となりの部屋のミシンの音が止む。ハッとして時計を見る。

 やべっ。

 ふすまがスーッと開いて、お母さんが戻ってきた。
 うあ〜、怒ってる怒ってる。

 「まだやってたの!いま何時?何時からはじめたか忘れたの?ファミコンは一日何時間までだっけ?」

 お母さんはどんなゲームでもファミコンと呼ぶ。自分がその世代なんだ。ねぇ。お母さん、僕ファミコンなんて見たことないよ。
 でもそんなことツッコんでる雰囲気じゃない。

 小さな声で答える。

 「…一人一時間ずつ」

 「二人一緒のときは?」

 「…一時間半」

 「分かってるじゃないの。なんで守れないの!」

 そんなこと言ったって、夢中になっちゃったら、時間なんて関係ない。だけど、言い訳したらそれだけ怒られちゃうから、おとなしくお説教を受けることにした。
 こんなときに怒られるのは必ずお兄ちゃんの役目だ。
 あっ、元お兄ちゃんがこっち見てクスクス笑ってる。コノヤロウ。

 結局、一週間ゲーム禁止になった。

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 僕がお兄ちゃんになって3日たった。僕としてはけっこううまくやれているのではないかと思う。思ったより大変だけど。弟の面倒とかね…ヘヘッ。


 そして今日は重大任務、お留守番だ。
 久しぶりに友達と遊ぶから、お母さんは昨日から浮かれまくっている。

 「いい?誰か来てもすぐにドアを開けちゃダメよ。ちゃんと誰なのか確かめてからね。知らない人だったら開けちゃダメよ。わかった?」

 もう!何度目だろう。そんなに言わなくてもわかってるよ。『七匹の仔山羊』じゃあるまいし。

 「じゃあ、いってきまーす」

 「「いってらっしゃーい」」

 ふう。行っちゃった。さて、どうしよっか?お留守番ははじめるのが難しい。僕たちはとりあえずゲームをすることにした。
 今日はちょっとくらい長くやってても怒る人がいない。やり放題だ。お留守番で家にいるしかないんだからしかたないよね。僕たちは悪くない。


 でもこうやっていつまでもできると思うと逆に飽きてくる。けっきょく僕たちは何をしてたんだか、ボーっとしてしまった。

 おやつを食べて、洗濯物を取り込んで、お風呂を洗って、あと何してたかはおぼえていない。
 いつのまにか暗くなってた。

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 「6時すぎたね。おなかすいてきちゃった。」

 「おやついつもより多かったじゃん。お母さん7時すぎないと帰ってこないよ。」

 暗くなってくると、なんだか落ち着かない。僕たちは、とにかくしゃべりつづけていた。こういうとき、元お兄ちゃんのほうが強くてくやしくなる。

 そのとき、

 ガチャガチャッってドアが鳴った。
 ふたりともビクッとして、ゴムではじかれたみたいに玄関の方をふり向く。

 「いまドアの方で音したよね?」

 「うん」

 「でもまだお母さんが帰ってくる時間じゃないし…」

 「早く帰ってきたのかもよ」

 「確かめてみよう」

 じっとしててもこわいのはなくならないから、僕たちはイチダイケッシンをしてふたりがかりで玄関にイスを持っていった。

 「おーい」

 ドアの向こうで男の人の声がした。

 「…っ」

 声も出ない。
 そんな僕を尻目に、元お兄ちゃんはカカンにもイスの上にのぼってのぞき穴をのぞく。
 すごい。お兄ちゃんってすごいんだ!

 「お父さんだ!」

 って叫ぶが早いが、お兄ちゃんはイスからおりてカギを開ける。いつもお父さんは僕たちが眠ったあとしか帰ってこないのに今日はずいぶん早い。


 「オー、ふたりでお出迎えか?」

 そのあと、僕たちはひさしぶりに平日のお父さんとたくさん話した。

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 「ただいまぁ」

 少ししてお母さんが帰ってきた。予定よりも三十分もはやい。

 「「「おかえりなさーい」」」

 僕たちは3人でお出迎え。

 「あら、あなた。もう帰ってたの?」

 「ああ、チビたちがさびしがってるんじゃないかと思ってさ。」

 「ああん。それならもっとゆっくりしてくればよかったぁ。」

 「ははは、でも心配いらなかったみたいだぞ。ちゃんと言われた仕事もしてたしな?」

 「「ぅふふ」」

 僕たちは顔を見合わせて笑った。どんなもんだ!って感じ。


 そのあと少しおそい夕ご飯を食べて、ぼくは今までガマンしてたぶんいっぱいお母さんに甘えた。

 「あら?お兄ちゃんがそんな甘えんぼさんでいいの?」

 僕たちはまた顔を見合わせる。

 「いいの!だって僕、弟だもん。」

 「もとどおりにすることにしたんだよ。」

 今度はお母さんとお父さんが顔を見合わせて笑う。なんかやっぱりね、って感じでくやしい。でもいいや。だって弟のほうがラクだもん。

 「ふうん。こまったわねぇ。今度お兄ちゃんになるのに。」

 「「え?」」


 お母さんは今日、サンフジンカっていう病院にも行ってきたんだって。来年には妹か弟が生まれるらしい。

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 んーと……やっぱりお兄ちゃんもいいかもしんない。
 でもたいへんだぞ。今度は僕、お兄ちゃんと弟をいっぺんにやらなきゃ。






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