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 なきむしロイ 


なきむしロイ

 まぁるい地球のはしっこの小さな村に
 ナキウサギのロイが住んでいました。

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 「ロイ!出したらちゃんと片付けなさいっていつも言ってるでしょう!」

 いつものようにお母さんの金切り声が聞こえて、ぼくは押入れの中に隠れた。
 押入れの中はいろんなものが変な方向にギュウギュウ詰めに入っている。

 「なんだよ、お母さんだって片付けへたっぴじゃないか。」

 あんまりぐちゃぐちゃだから、お客さんがきたとき絶対に台所のカーテンを開けないことだって、ぼく知ってるんだから。

 「ロイ!こんなところのいたの!」

 あちゃー、もう見つかった。お母さんはぼくがどんなところに隠れても、すぐに見つけちゃうんだ。

 お母さんがもうひと声叫ぼうと息を吸い込んだすきをついて(きっと「はやくしなさい!」っていうつもりだったんだ。いっつもそうだもの)、ぼくは押入れから飛び出した。
 こんなときのために用意しておいた、おかしとかお気に入りのおもちゃとかを入れたリュックをつかんで、

 「おかあさんのばか!」

 と、叫びながら靴をつっかけて、ミサイルのように玄関を飛び出した。
 あんなわからずやで、怒りんぼなお母さんなんてもう知らない!
 僕は家出することに決めた。

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 ぼくが怒ったトリケラトプスみたいに歩いていると、向こうから怒ったステゴザウルスみたいに歩いてくるポポスが見えた。

 「やぁ、ポポス、一日ぶり。そんなに大きいリュックでどこにいくの?」
 「やぁ、ロイ、一日ぶり。ぼくはいま、家出してるんだ。だって、お母さんが、毎日ピーマンを食べさせるんだもん。しかも、ちいさく切って、分からなくしようとするんだよ。ぼくは、だんぜん家出をするね。」
 「なぁんだ、そっか。じゃあ、ぼくとおんなじだ。ぼくもいま、家出してきたとこなんだ。・・・そうだ!ぼくら家出ドウメイを組もうよ。」
 「ド・ウ・メ・イ?・・・ってなぁに?」
 「え?ど、ドウメイっていうのは・・・そう、ともだちになるってことだよ。」
 「ん〜?ぼくたち、もうともだちじゃない。」
 「そうだけどぉ・・・。特別のともだち!ぼくたちは、家出ともだちってこと。」
 「そっか!ぼくたち家出ドウメイだね。」
 「う?うん。まぁ、そういうこと。ようし、それじゃあ、家出ドウメイ出発だ!」
 「うん、出発だぁ!って、なんで?どこ行くの?」
 「だってぼくたち、家出してきたんだよ。まずは、住むところ探さなきゃ。」
 「そっか。ぼくたち家出してきたんだもんね。どこがいいかなぁ。」
 「・・・そうだ、ムージャじいちゃん家の裏の森の小屋なんてどうかなぁ。」
 「え〜、あそこオバケ森につながってるんだよ。やだなぁー、そんなとこ。」
 「何ゼイタクいってんの。じゃあ、ほかにどっかいいところある?」
 「う〜んとぉ。う〜んとぉ。う〜〜〜んとぉぉ。だめだぁ、ないや。」
 「ようし、きーまりっ。それでは、家出ドウメイ、しゅっぱーつ!」
 「うん。しゅっぱーつ!」

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 ぼくとポポスが歌をうたいながら、兵隊さんの行進みたいに歩いていくと、ムージャじいちゃんが畑で仕事をしてた。

 「おや、ロイにポポス。おっきな荷物を持って、ピクニックにでも行くのかい?」
 「ちがうよ、ムージャじいちゃん。ぼくたち家出してきたんだよ。」
 「フォ〜ッフォッフォッ。そうかそうか、家出じゃったか。それでそんなに大きい荷物か。」
 「そうだよ。だからね、ムージャじいちゃん、ぼくたちがここにきたこと、お母さんに言っちゃダメだよ。」
 「フォ〜ッフォッフォッ。わかったわかった。あの森へ行くんじゃろ?オバケには気を付けるんじゃぞ。」
 「ロイィ〜。オバケだってさぁ。やっぱりあそこやめようよぅ。」
 「オ、オバケなんかいるわけないだろ!いたら、隣に住んでるじいちゃんだって、オバケに食べられてるはずだもん。」
 「フォ〜ッフォッフォッ。わしはオバケとなかよしじゃからのう。ロイたちは気を付けねばの、食べられんように。フォ〜ッフォッフォッ。夕飯までには、帰るんじゃぞう。」
 「帰らないよ!家出だって言ってるでしょ!」
 「フォ〜ッフォッフォッ。」

 ムージャじいちゃんは何を言っても笑ってるばかりだったので、ぼくたちは先を急ぐことにした。

 「まったく、じいちゃんったらあんな事言って。絶対に帰らないんだから。ね?」
 「ね!」

 ぼくたちは、ケツイヲアラタニ家出どうめいの隠れ家に向かった。

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 森の入り口についた。

 「うわ〜。やっぱりブキミだねぇ〜。オバケでないかなぁ。」
 「オ、オバケなんか出るはずないだろ。い、行くぞ。」
 ぼくたちは、歌をうたいながら行くことにした。それも、さっきよりも大きな声で・・・。
 少し行くと、急に強い風が吹いて、鳥たちが「ギャ―、ギャ―」と大声で鳴きながら、バサバサと飛び立った。

 「「わあぁぁぁーーーー」」

 ぼくたちは、イチモクサンにかけだしていて、そのまま、小屋の中までいっぺんに走っていった。

 「ハァ、ハァ、ロイ、怖くないんじゃなかったの?」
 「ハァ、ハァ、そ、そんな事言ってないだろ。」
 「ハァ、言ってたもん。」
 「ハァ、言ってないってばぁ。・・・でも、ウフ、ウフフ、ついたね。」
 「ウフフフ。うん、ついたね。」
 「これでおもちゃ散らかしててもおこられないぞぉ。」
 「これでキライなもの残してもおこられないぞぉ。」
 「ウフフフ。」
 「ウフフフ。」

 ぼくたちは、好きなだけおかしを食べたり、おもちゃを交換したりして、しばらくのあいだ遊んでた。

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 「あっ。」
 「え?どうかした?」
 「お外見てみて、暗くなってる。」
 「ほんとだぁ。お母さん心配してるかなぁ。」
 「何言ってんの。ぼくたち家出ドウメイなんだから、お母さんなんて関係ないんだよ。」
 「そっか。そうだった・・・んだよね。」

 そう言って、ポポスは「ハァ―」と、ためいきをついた。
 そんな顔しないでよ。ぼくまで悲しくなるじゃない。

 そのとき、

 ゴォォォォーッ、と強い風が吹いて、鳥たちが「ワァー、ワァー」言いながら飛び立った。
 ぼくにはそれが、「悪い子だ!食べちゃうぞ!」って聞こえた。
 そしたら、窓に映ってたはっぱのかげが、急にオバケの形になった。

 「わぁぁぁーん、オバケェェェー。」
 「な、泣かないでよ、ポポス。泣かないでったら。うぅ、うわぁぁぁーん。」
 「お母さぁぁーん!」
 「お母さぁぁーん!」

 ぼくたちは、たくさん泣いた。「お母さぁぁーん!」と泣きつづけた。
 そして、そのうち、つかれて眠ってしまった。

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 「あら、この子たちったら、寝ちゃってるわ。」
 「あらあら、ホント。」
 「よいしょっと。まぁ、まぁ、重くなったわね。」
 「ホントに。あらまぁ、真っ赤な目しちゃって。」
 「よっぽど泣いたのね。」
 「うふふふ。」
 「うふふふ。」

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 なんだか、お母さんの声が聞こえる。

 「うぅ〜んん。」
 「あら、起きたの?」
 「お母さんっ!」
 「まったく、こんな時間まで遊んで歩いて。もう、お夕飯の時間ですよ。」

 周りを見てみると、まだ暗くなりはじめたところだった。真っ暗だと思ったのは、森の中だったからみたい。

 「お母さぁぁーん!」

 泣きながら、お母さんの背中に顔をうずめる。隣では、ポポスもお母さんの背中に揺られながら泣いていた。

 「あらあら、ロイはやっぱりなきむしさんねぇ。」

 そういわれても、ぼくはずっと泣きやめなかった。

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 わすれてた。

 お母さんはぼくがどんなところに隠れても、すぐに見つけちゃうんだった。






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