ハッピーマンデー |
「しょうがないよね。」 何がしょうがないのか自分でも良く分からなかった。その言葉自体に意味はないのだと思う。 ただただ、自分を納得させるためだけに発せられる言葉。そうやって、事実を突きつけてやらないと気持ちの方がついていかない。 言葉にして認識することで、一定のカテゴリに入れて、納得する。でも、納得出来るか出来ないかの問題じゃない。プラスマイナスの方向性は別として、それは一種の安定状態であり、それを求める。言ってみれば補償作用のようなものなんだと思う。人が言葉を生み出した背景には、伝えたいという思いとはまた別に、そういった側面があるはずだと、なぜかこんなときに考える。 だけど、僕がどんなことを考えても、君がこの街を去っていくということに変わりはないし、変えようとも思わないし、ただそれを受け入れるだけ。 『素敵な友達』が遠いところへ行ってしまう。 二ヶ月が経った。 あれから僕はどこか変わったろうか。 君がいなくなることが僕に与える影響をいろいろ考えていたけれど、現実は冷静で、日常はあくまで流れていく。 それは僕の感傷なんかお構いなしで、忙しさにかまけてしまうと、君の影すら映さない。 きっと君は新しい日常に僕よりももっと忙しい生活を抱え、僕やみんなのことは別の一部分に区分けされてしまったのだろう。それとも、逆に僕なんかより思い出す比率は高かったりするんだろうか。 去って行く者と去られた者の間には、決定的な違いがある。 今の外の思い出と、今に空いた穴と。 どちらがよりつらいかなんて考えることはきっとナンセンスなんだろうけど、それぞれのなかの栄養剤として在ることが出来たらいいと、空気のおいしい夜に考えたりする。 格好悪いとは思ったけれど、手紙を書いてみることにした。 なんか転校してしまった友達に初めて手紙を出すような気分だ。 拝啓・・・なんか照れくさい。お元気ですか?・・・うん、これでいこう。 何を書こうか。 いざ紙を前にすると言葉が出てこない。たくさんの出来事があったはずだ。別にその内容に意味などなくていいのだとは思う。だって、僕らは本当にくだらないことで何時間でも話していられたんだから。 そうは思うんだけれど、なかなか筆が進まない。あっ、新しい○○のCM見た?君の好きな俳優が出てたよ。・・・なんかしっくり来ない。これが距離感というものだろうか。 「便りがないのが良い便り」とはよく言ったもんだ。思わずものすごく納得してしまう。 そしてそういうことにして、書きかけの便箋を折りたたんでゴミ箱に入れた。 留守番電話に君の声が入っていたのは、夢の中に君が出てきた次の日のことだった。 こういうのを偶然と片付けてしまえばそれまでなんだろうけど、なにかどこかで呼び合っている部分があるのではないかと、そういう科学では解明し切れない人の力があってもいいのではないかと思う。 内容はないと言ってもいいようなものだった。 「ちょっと声が聞きたくなって。また電話するね。」 正直安心した。 この間「便りがないのが良い便り」に感心した僕としては、連絡が来るときはなにか事件(?)が起こったときではないかと危惧していたから。 もしかしたら、つらいことがあってかけてきたのではないかとも思ったけれど、もう一度再生してみて確信した。 大丈夫。 声を聞けばそれくらいわかる。 着信時間を見た。「なんだよ。タイミング悪いなぁ。」そうは言いつつ、ちょっと笑ってしまう。 よかった。うん、よかった。君が元気そうで。 欄干に腰かける。 流れの遅い、細い川。こんなところにも魚はいて、秋には蜻蛉も飛んで、僕らはよくこの橋にきた。 家の方向などからも集まりやすかったし、他の人もあんまり来なかった。 僕はいつも待ち合わせの時間よりちょっと早く来て、みんなが来るのを待っていた。 だんだん仲間が集まって来るのを見ているのが好きだった。 君はいつも最後の方で、やってくると「危ないから、こっちへ来なさい」と手を引いて僕を低い欄干から離した。 思い出すのはそういうことで、思い出すためにここにきたのかもしれない、そう思った。 いま一人でここの欄干に腰かけてて、誰も来るはずのない時間を待っている。誰かが見たら、きっとすごく寂しそうに見えるのだろう。 けど、意外にそんなことはない。 幸せの記憶というものは、やっぱり幸せなんだと思う。 橋の上の風は少し冷たい。 その風に時を乗せて、ゆるやかな流れに思い出を浮かべて、もう少しだけ、ここにいよう。 いつのまにか、夕焼けも過ぎて月が出ていた。 こんな風に思い出巡りでもするように休日を過ごしてしまったのは、この間の留守電で君の声を聞いてしまったからだろうか。 そんなことをボーっと考えながら歩いていたら、家に着いてしまった。 時間は決して平均的には流れていないと思う。 でも、まぁ今回はいいや。損した気もしないし。 家に入ると、壁にかかった小さいジグソーパズルが目に入った。 いつも掛かっているはずなのにやけに気になった。 ああ、そうか。これは誕生日に君に貰ったものだっけ。 いつ見ても…変な絵。 「なにこれ?」って言ったら、「なんだか、似てると思って」と返された。 この変なロボットの絵が?ふうん。 改めてじっと見てみる。 似てるかも知んない。 初めてそう思った。 不意に、わかった。 朝起きてカーテンを開けて窓を開けたら、なぜかわかった。 昨日の思い出巡りの所為で感度が高くなっているのかもしれない。 君は今日戻ってくる。 頭の中のチャンネルに急にCMが入ってきたようだ。 もしかしたら、この間の電話はこのことを伝えようとしていたのかもしれない。でも、つながらなかったから意地になっちゃって、突然来ることにしたんだろう。 君のことだから、朝早く来ようと思いつつ寝坊してしまって、きっとこの街に着くのは10時頃だな。 僕は適当に身支度をして駅に出かけていった。 改札を通る君、ベンチに座る僕。 「なんでいるの?」 別に対して驚いた風もなく一応驚いた君に 「なんとなく」 と答え、僕らは再会した。 といっても、思いっきり久し振りってわけでもなかったけど。 きっとこれからもこんな風に適当に会って、時間が経ったとしても僕たちはこんな風なのだろう。 それでいいと思った。いや、それでいいと感じた。 「とりあえず、あの橋に行ってみる?」 ハッピーマンデーの三連休の二日目。 きっといまから電話をかけまくれば、みんな集まるはずだ。 いつものあの橋の欄干に、今日は二人で早めに行って、みんなが揃うのを待とう。 |
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