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 指輪。 


指輪。

 「うふふふ。」
 だめだ。顔がにやけてきちゃう。傍から見たらあやしい人かな?
 柊からもらったばかりの銀の指輪を見ているときの私の顔は、きっと世界一幸せに見えるだろう。いいんだ。だって世界一幸せなんだもん。
 寒いかもしんないけど、手袋しないでおこうかな?隠しちゃうのがもったいない。世界中の人に見せびらかしたい気分。



 私と柊はもう4年間付き合っている。高校のときから。だけど、そのほとんどは遠距離恋愛だ。高校卒業と同時に私は仙台に引っ越して大学に入って、柊はそのまま東京の大学に行った。普通に見かけるカップルよりも一緒にいる時間は極端に少ないと思う。我ながら良く続いている。
 だけど、不思議と(別れよう)なんて考えたことはなかった。気持ちがすっごくやさしいし、私のことを考えてくれて、そして解かってくれる。深く考えなくても柊以外は考えられなかった。

 もちろん不安がなかったわけじゃない。ほら、男のひとって……ねぇ?…………エッチ……できない彼女なんかイヤっていうじゃない?柊がそうだって思ってるわけじゃないけど……でも…近くにいる娘によろめくことだってあるかもでしょ?心が動かなくても、体が動くことだってあるかもしれないし。どうしても私は不利なわけよ。あんなにやさしい柊だもん。他の女の子がほっとくわけない!

 でもね、信じてた。柊には内緒だけど、不安で押しつぶされそうで泣いたことだってある。でも、あんなに解かりやすく好きでいてくれる。その気持ちを素直に、全力で信じようとおもった。


 メールや電話だって毎日した。一日話せない日があるだけで、すっごく寂しくなっちゃうけど、そんなことよりも、話さなくなることの方が怖かったから、我慢できた。「伝えたい」という気持ち。それがなくなることが怖かった。離れているから伝わらないんじゃない。なかなか伝わらないからって、諦めてしまうのが怖かった。

 いっぱい話した。私のこと。ほんとにくだらないことまで。
 いっぱい聞いた。あなたのこと。どうでもいいようなことでも、私にとってはどうでも良くなかった。だから私のくだらない話も、あなたにとってはくだらなくないのだと思っていいよね。

 あなたは絶対に自分からは電話を切らなかった。私が満足して眠くなったのを確認して、「大好きだよ。おやすみなさい。」って、必ず言ってくれた。あなたの声で眠れることが、とても幸せだった。


 あなたと歩くのが好きだった。左の手袋を取る。それが手をつなぐ合図。さらっとくさいセリフを言ったりするくせに、こういうところで変に恥ずかしがり屋で、自分から手をつなぐことが出来ない柊。

 テレビのニュースで「こんばんは」っていうと「あっ、こんばんは」って返す柊。
 玉ねぎ切るのがすごく苦手な柊。
 口笛がいつも『Let it be』な柊。
 小さいお菓子を上に投げ上げて食べる柊。



 私のなかに、たくさんの柊がいる。でも、もっともっと知りたい。私の想像を裏切って、ビックリするような柊を見せて。




 この指輪は婚約指輪でもある。もらうときにプロポーズされちゃった。あのときの柊の顔ったら。すっごい真面目な顔してて、ちょっと笑いそうになっちゃった。だって、何言おうとしてるか、丸解かりなんだもん。うふふ、すごいでしょ?そのくらい解かるわよ。何年柊の彼女やってると思ってんの?

 でも、あなたが言わなきゃ、きっと私から言ってたと思うよ?「柊のお嫁さんになりたーい」って。ずっと考えてたからね。そうなったらどんなに幸せだろうって。

 だから、どんなについてないことだっていまの私を不幸にすることはできないの。車にドロドロの雪をはねられたって、一生懸命書いたレポートがCだったって、何があってもこの指輪を見れば元気になれる気がする。安い女だなんて思わないでよ?それだけあなたが好きなんだから。


 でも、あなたが東京に帰ってしまうこのときはやっぱり寂しいよ。いまの私は全部柊でできてるみたいだね。全ての感情があなた絡みでやってくる。

 それなのに、柊ったら、絶対改札までしか送らせてくれない。入場券がもったいないとか言っちゃって。案外別れがつらくてちょっと泣いちゃってたりして。
 ………………ありうる。

 置いてかれた気がして悔しいから、改札を通った柊にメールを送ってやった。
 「あなたが私を想っているのと同じくらい好きです」
 照れ笑いしながらあなたが振り向く。やった。

 もうずいぶん離れてて、大声出さなきゃ聞こえないのに「おれもぉ!!!」って叫ぶんだもん。私のほうが恥ずかしかったわよ。もうっ、私の負けね。

 ほら、いいから、早く行かないと!ギリギリまでしゃべってたんだから、新幹線行っちゃうよ。これ逃したら大変なんでしょ?ああ、もう、かわいいなぁ。

 焦ってかけていくあなたの背中に
 「柊、愛してるよ」
 すごく小さい声で呟いた。

 あっ、また振り向いた。…最後に顔が見たかっただけだよね?
 ………………まさか、聞こえてないよね。
 私たち、テレパシーまで使えるようになったのかしら?


 「着いたよ。」って言う電話があったら、聞いてみよう。
 <私が最後あなたに言った言葉は何だったでしょう?>

 まだ違和感がある左の薬指を右手でなぞりながら、
 (今度はちゃんと言ってあげるね。)
 あなたと暮らす日々をちょっとだけ思った。






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